【25年目の麻布中学合格体験記】あとがき。中学受験は美しい

記憶の再構築はなかなか困難であった

25年も前の中学受験について記憶を掘り起こし、一連のストーリーとするという作業はそれなりに大変なものだった。なにせ記憶がない。いくら私でも25年も前のことを事細かに覚えているわけはない。しかし、親に聞くということは禁じた。それをやると、私の合格体験記ではなくなってしまう可能性があるからだ。もうひとつのルールとして、どんなに苦しくても捏造はしないことにした。事実の中から、面白い部分をクローズアップして面白く書くということも技量の一つだから、逃げずに戦おうと思った。

記憶を辿るには、目を瞑り、覚えている風景や言葉、感情などから記憶を再構築していった。(こういうものをエピソード記憶と呼ぶそうだ。私は、単純記憶は難しいのだが、こういう記憶は得意な方だ)マインドパレスというと大げさだが、それに近いものを頭の中に構築していった。その過程はなかなか楽しいものだった。大人になると、小学生や中学生の頃は楽しかったなぁと懐古するのが定番なわけであるが、その時の感情をもう一度辿れたのは、幸運なことだと思う。

誰に強制されてるわけでもないから途中で投げ出すことも可能であったが、25年目の合格体験記を書くことは自分にしか出来ないという思いが、このシリーズを完遂させた。少なくとも、こんなバカなことをやろうと思うのは、私くらいしかいないでしょう。

中学受験は美しいものだ

私は、このシリーズを通じて中学受験の美しさを伝えたかったのだと思う。もちろん、私が親にしてもらっていたこと、使っていた本などを共有することが 有益であるという当初の目的も追求した。しかしそれすらも、中学受験の美しさを伝える一つのパーツに過ぎなかったと今に至ってみると思うわけである。

私は麻布学園という学校は素晴らしい学校だと思っているが、これはわりと自明である。

では一方、中学受験というのはどうか。これには賛否両論がある。よくあるのは、早期教育への批判や、時として虐待への批判である。 お金がかかることから、格差拡大を助長しているという一面もある。

このシリーズを通じて、私は中学受験の暗黒面もすべて含めて中学受験なのだとして美化した。 真に価値のあるものを手に入れるために、戦いの中で血を流すことは美しいことだからだ。 中学受験で敗北した家庭が破綻し、離婚に至ったり場合によって子供が自殺ということになっても、それは中学受験の結果でしか過ぎない。 勝って喜ぶものがいれば、負けて死ぬものがいるのは、当然である。 むしろそうでない方がおかしい。

いじめのことや、合格を報告しに学校に戻った時の話をしたのも、それらすべてをひっくるめて中学受験だと思うからである。もちろん捏造ではないが、 ただの成功ストーリーを描くだけならば、書く必要はない。ましてや、中学受験の素晴らしさを伝えたいのであれば、ネガティブなことは書くべきではない。

ではなぜ書いたか?私がそれらも中学受験の美しさのうちであると考えているからである。

よく、公立から一流大学に行ったことをコスパが良いと言って自慢する輩がいるが、表面的な0の数に囚われた薄っぺらい人間だと軽蔑している。我々は、そんなくだらないものを手に入れるために中学受験をしたわけではない。そうでしょう?彼らには中学受験の4文字を口から発する権利すらない。

なぜ中学受験は美しいのか

中学受験は美しいと言った。その理由としては、中学受験というのが 本当に価値のあるものを手に入れるために多大な犠牲を払うものだからだとした。

犠牲とは何か。 小学生の4年から6年というのはふつうの子供であれば遊びまくっている年頃である。 親も、子供を遊ばせてやりたいわけである。 その時期を犠牲にして、年間100万くらいはかかるであろう塾代も突っ込んで、 すべてを中学受験に賭けて、一発で勝負で決まる。 親は、叩きたくない我が子の顔を叩き、叱咤する。 これが美しくなくて何が美しい?

そして、もう1つ中学受験が美しいと思う理由が、 中学受験というのは、親子最後の二人三脚レースという点である。

このシリーズを通して読めばわかると思うが、私には多少の才能はあった。 しかし、母親が付きっきりで勉強を見てくれたり、 苦手科目を強化するためにあの手この手を尽くしたりしてくれなければ、 そして私がそれに必死で応えようとしなければ、 きっと平凡な成績に終わっていたに違いない。

二人三脚というのは、言葉は誰でも知ってるけど、実際には 非日常的なものだ。例えば運動会で親子二人三脚なんてものがあるくらいで、 日常生活の中で親子二人三脚で何かを成し遂げるということはあまりない。 しかし中学受験は紛れもなくそれである。

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