啓進塾は復活します!

中学受験昔話をしたい。 1997年の中学受験の話だ。

啓進塾の歴史

おれが通った中学受験塾は、啓進塾というところで、 今は神奈川県内に5校まで展開したらしいが、 当時は金沢文庫という駅に1校しかなく、 しかも今の本校ビルではなく、その隣にある小さいビルの中にあった。 現在の本校ビルにはもともと日能研が入っていた。

なぜ、日能研の隣のビルに啓進塾を作ったかというと、 啓進塾は、日能研をスピンアウトした先生たちが作ったからだ。 日能研の詰め込み的な教育方針に反対し、 離脱した講師たちが、正反対の教育方針をもつ塾を 日能研の隣に作った。

中学受験業界では塾のスピンアウトはよく起こる。 サピックスはTAPという塾の講師によって作られたし、 そのサピックスからはまたグノーブルという塾が作られた。 関西では希学園が浜学園のスピンアウトであること有名だ。

中学受験はシビアな世界であり、その上対象は小学生となる。 だから、教育方針について意見が食い違うことが頻繁に起こり、 その度にまた新しい塾が出来上がるということなのだろう。 こういった新陳代謝は良いことだと考える。

啓進塾はその校舎を、自身の親元である日能研の隣に わざわざ作るくらい、対抗心に燃えていた。 日能研をボコす。そういうオーラがあった。 そういう事情は生徒も知っていたから、 日能研の生徒とは窓越しに野次りあっていた。 まさに、受験戦争だった。

啓進塾の教育と合格実績

啓進塾は、中学受験的な詰め込み学習を完全に嫌った。 子供を勉強好きにして、勝手に勉強をする賢い子にすれば 自然と結果はついてくる。 そういう教育方針だった。

しかし、合格実績は決して悪くはなく、というか抜群に良かった。 おれが塾に入ったのが1994年だが、その時に入塾説明会の資料に配られた その年の合格実績の紙が手元に残っていたので見てみると、

男子21名

  • 麻布 or 栄光 7名
  • プラス or 聖光 9名
  • 浅野 10名

つまり、3割は麻布か栄光に行き、 半分は浅野に合格する。 そんな抜群の成績を誇っていた。 「卒業生の半分が浅野中学に合格」 これが当時の宣伝文句だった。 おれの家庭は裕福ではなかったので、 浅野にしか受からなかったら進学させないと脅されていたが、 一般には浅野中学に合格すれば万々歳だ。

だから、3年秋にある入塾試験はその地域では最難関で、 日能研でもっとも良い組の合格をもらう子でも落ちると言われていた。 当時はサピックスが横浜にはなかったので、狭き門を突破するために 横浜南部と横須賀地域の優秀な子供たちが競った。 中には今でいうところのギフテッド的な子もいたように思う。

突破したのは男女合わせて20人か30人くらいだったと思うが、 男子に限っていえばその中の5割以上は麻布か栄光に進学した。 思考力のある子供を集めて、思考力を伸ばす教育を徹底し、 思考力重視入試を行う麻布と栄光を攻略する。そういう戦略を徹底していた。 おれも運良くぎりぎりそのうちの一人に選ばれたので中学受験を始めたという ことは以前に話した。

さて、啓進塾の塾長は曽根というが、その曽根が去年の9月に亡くなったらしい。 おれはその事を最近知ったのだが、 曽根が湘南FMというラジオで自身の教育理念について語っている番組は、 以前から聞いていた。 面白いから是非聞いてみてほしい。

故 曽根先生 湘南ビーチFM 総まとめ

啓進塾はおれがいた世代の途中で突然、生徒数を激増させる。 1997年の卒業生は男子63名。 入塾試験が度々行われ、その度に新しい子が入ってきた。 最初は1つの小さな部屋で行われていた授業は 成績順に1組から3組までの3部屋になり、 校舎も近所にもう1つ借りて、2つになった。

おれは当時、きっとこいつらは金儲けのために生徒数を増やしているのだと思っていた。 もちろんそういう一面もあっただろうが、 それとは別に、多くの子供を賢くしたいという曽根の思いがあったのだということをラジオで知った。 それがこの記事を書こうと思った理由でもある。

啓進塾はたしかに、優秀な子を集めてその子たちを伸ばすことには成功した。 しかし曽根の思いとしては、それは当然のことであり、 実は本当にやりたいことはふつうの子も賢くすることだ。 これが実際にやろうとすると本当に難しいとラジオで語っていた。

二次募集三次募集の子の中には、 その後塾内でトップレベルになるような子もいれば、 全くそうではない子も混ざっていて、 結果として実績のレベルは打率だけみればやや下がった。 1997年の合格実績は以下のとおりだった。

男子63名

  • 麻布 or 栄光 14名
  • プラス or 聖光 17名
  • 浅野 25名

多少落ちはしたがそれでも4割は浅野に受かってしまうということは、塾内の平均偏差値でいえばY60程度。 偏差値60の壁というのは一体どこの世界の話なのか、そういう集団だった。 しかも当時の偏差値は現代の偏差値よりも価値が高い。

現代の中学受験における偏差値希釈に関する数理的考察

この後啓進塾はまず戸塚に展開し、 最近では川崎に校舎を立て、県内で5校舎を構える塾に発展し、 もはや小規模塾とはとても呼べない規模となった。

塾を展開すると、 トップクラスの合格実績は高止まりした。 これは、ある程度以上の学校に行ける子というのはやはり才能が必要で、 そういった子の数は限られているからというのもあるだろうが、 啓進塾の場合は特に、子供の一人ひとりと向き合うようなやり方であり、 また杉本先生などユニークなカリスマ講師のパワーによる影響が強かったため、 こういった要素も、 サピックスなど最初から大規模化を狙ったシステマティックな教育法に比べると、 大規模化には向かなかったのだと思う。

それでも、合格実績はそれなりにはよく、2012年は

男子158名

  • 麻布 22名
  • 栄光 18名
  • 聖光 23名
  • 浅野 43名

とまずまずの結果を出している。 さすがに半分が浅野とは行かないが、 それなりのところにいれば浅野くらいには行けるし、 その中で半分くらいは麻布栄光に行けている。

しかし、それから啓進塾の合格実績はぱっとしなくなる。

2021年は

男子265名

  • 麻布 14名
  • 栄光 18名
  • 浅野 38名

2012年に比べると人数は増えたのに実績は落ちている。 前年の2020年も同じような感じだ。 これは、こういった難関校に届く才能のある駒が減ったことを意味する。 啓進塾が校舎を出した地域には決まってサピックスがあるため、 おそらく御三家を狙うような子供をほぼサピックスに奪われてるのだろう。

そして2022年だが、これはおれも目を疑った。

男子 189名

  • 麻布 4名
  • 栄光 12名
  • 浅野 26名

啓進に何が起こってしまったのだ。 生徒数は突然激減してるし、 麻布に至っては4人しか合格していない。 これはもはや1994年より悪い。 まるで地獄のようだ。

啓進塾の今後

曽根が死に、今後啓進塾は 高林新塾長の下で第二章に突入する。 おれはこの人を知らんのだが、どうやら算数の先生のようだ。

高林先生「テクニックに頼るのではなく、持っている知識を最大限どう活用するかを学びます。失敗を繰り返した先にある、問題を解決する力、ひいては困難を解決する力をつけてもらいます。問題を解いて、その場で添削し、再度演習する啓進ならではのカリキュラム『特算』もその一環です」

曽根塾長「啓進が大事にしているのは、生徒一人ひとりに『自分の受験』をしてもらうことです。きっかけは親に塾に連れてこられたことであってもいい。3・4年生の間に塾で学ぶ楽しさを知ってもらえれば、自ら学ぶ姿勢を持つ賢い子になっていきます。楽しくなければ逃げたくなるのは当たり前、勉強に興味を持つようになれば伸びます」

勉強が好きな子、賢い子に

今後啓進塾はどうなるだろうか? 中学受験が結果を強く求められる業界である以上、 徹底した復習主義によって子供の才能を犠牲にしつつも高い打率を出し続ける サピックス全盛の時代は今後もしばらくは続いてしまうだろうから、 苦戦は強いられると思う。

SAPIXと鉄緑会は日本の癌

しかしおれは、啓進塾の教育自体が間違ってるとは思っていない。

コロナウイルスの蔓延により、世界は混沌とし、 自分の頭で考える力の重要性はより一層増したように思う。 リモートワークという労働形態においても、 自律的に学び、自らアウトプットし続けることが出来る能力は必須だ。

そしてこれは、啓進塾が育てたい人間そのものだ。 啓進塾、麻布、京大という教育の中で培われた超自由力がおれの 武器となり、 実際におれは今、水を得た魚状態だ。

コロナウイルスに対して 言われるがままにワクチンを打ってしまった人は多い。 後悔している人も多いだろう。 しかし、自分の頭で考え、コロナウイルスに対してワクチンを打つことの愚かさ、 遺伝子ワクチンの危険性に気づけば、打つことは選択肢としてあり得ないのだ。 実際に、啓進塾の卒業生の多くはワクチンを打ってないだろうし、 今後訪れる日本経済の破綻に対してもしっかりとした危機感を持てているはずだ。

自分の頭で考えるということはまた、 自分の人生を生きるということでもある。 人生を豊かにするためには啓進塾のような教育が必要であり、 今後時代が進めば再評価されることは間違いないと考える。

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