ポワロシリーズ「ABC殺人事件」読者だけが犯人を知っている

ポワロシリーズの「ABC殺人事件」のレビューをします。

中学生の頃に買ってもらったことがある

このタイトルはアガサ・クリスティの小説の中でも有名な方で、 私は中学生くらいの時に本だけは買ってもらっていた記憶があります。 しかし、読みかけのオリエント急行とABC殺人事件はラックの上にほったらかしになりました。

そして20年の時を経て、ようやくまた読み直そうと思ったわけです。

オリエント急行については、

オリエント急行の殺人。アガサ・クリスティはまたズルをする

でレビューをしました。この時も「こんな話だったっけ?」と思ったのですが、 今回のABC殺人事件についてもやはり記憶が全くなくなっていて、 さすがにABC由来の殺人が起きるということだけはわかるのですが(オリエント急行も、オリエント急行の中で殺人が起きることだけは覚えていましたよ)、 やはり、「こんな話だったっけ?」でした。

思うに、中学生の自分にはイギリスの風景について想像することも出来ませんでしたし、 外国人も英語教師以外見たことがないくらいだったので、 きちんと想像が出来ていなかったのでしょう。 だから、飽きてしまったのです。

2000年前後ですから、今のようにテレビやネットで外国人を見るような時代ではなかったですし アメリカとイギリスの違いもよくわからないくらいでしたから。 テレビに出てた外国人といえば、ケント・デリカットとCWニコルくらいだったように思います。

あらすじ

ある日、名探偵エルキュール・ポワロの元に一通の手紙が届く。 差出人はABCと名乗るもので、手紙には、これからアンドーヴァーという町で 事件が起きることが書かれている。これはまさにポワロへの挑戦状だった。

しかしポワロは日常からこのような手紙を受け取っているから さほど気にはしていなかったのだが、手紙から受ける印象がどうも引っかかる。

そして日が経ち、事件は起きる。


アンドーヴァーにある売店のおばあさんアリスアッシャーが 頭を鈍器で殴られて殺害される。

まずはじめに疑われたのは夫のフランツアッシャーであった。 この男は無職の酒飲みであり、常に妻のアリスに金をたかるようなクズだったからだ。

しかし、ポワロは直感的に、この男が犯人ではないと見抜く。 なぜか。手紙から受ける印象が、とても酔っ払いの書くものではなく、 とても理性的で、警察の言うように狂人の仕業とはどうしても思えなかったからだ。

ここでその場の誰もが次の事件を予感する。 Aのつく町でAのつく人間が殺された。では次はBではないのか?

ほどなくして2通目の手紙がポワロの元に届く。 今度はベクスヒルという海辺の町での殺害予告であった。 ここで殺されたのは、エリザベスバーナードというカフェ店員の若き女性であった。 自身の身につけていたベルトで首を締められていた。 なぜベルトを外していたのか。尻軽で有名なのだ。

このようにしてAの町で人間Aが、Bの町で人間Bが殺された。 次は当然Cの町で人間Cである。

ヘイスティングズ大尉の記述ではない

さて、ここで一度、意図的にスキップした重要な章について話したい。

この本には全35章中8章も「ヘイスティングズ大尉の記述ではない」という章が出てくる。 その他の章は、ポワロの相棒のヘイスティングズの視点で書かれたものなのだが、 この8章については全くの第三者視点で書かれている。 では、何について書かれているのかというと、 アレクサンダーボナパルトカストという人間の行動について書かれている。

その初登場はなんと2章である。 ポワロが第一の手紙を受け取った直後に、カスト氏は登場する。 そして、「ペンで、リストの最初の名前のひとつのしるしをつけた」のだ。

何を言わんとしてるかわかるだろうか。 殺人犯はカストである。 ポワロたちはカストのことは知らないが、読者だけはアガサ・クリスティから、 カストという人間のこと、カストが殺人犯であることを知らされている。 この情報の非対称性を保ったまま、物語は進行していくという 全く斬新なスタイルの小説なのである。 我々だけが知っている、カストという人間にポワロがどのようなアプローチで たどり着くか、これが本作の楽しみである。

これだけいえば、 ABC殺人事件の楽しみは十分に伝わっただろうと思う。 しかし、すでにABC殺人事件を読んだ人は当然気づいただろうが、 私は重要なことをこの記事では述べていない。

そのとっておきは自分の目で確かめてほしい。


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