超名作「アクロイド殺し」のラストについて思うこと

私なりの「アクロイド殺し」に対する感想を書き残しておく。

犯人がシェパード医師という衝撃のラストについて

アクロイド殺しの犯人は、相棒のシェパード医師である。

私は、アクロイド殺しの結末は衝撃的だったし、たくさんの混乱した情報からポワロが犯人にたどり着く道筋を見つけていく過程も楽しめたので、アクロイド殺しは超のつく名作だと思うのだが、一方で、この小説は、推理小説業界から禁忌を冒したとして批判もあったようだ。というのも、スタイルズ荘もそうであったように、この物語も同様に、相棒のシェパード医師の視点で書かれる。

これが何を意味するかというと、犯人が自分が犯人であるような情報を書くわけがないから、読者はシェパード医師が犯人であることに気づきようがない。これをルール違反、アンフェア、禁忌だと言ってるわけである。

しかし、この点については私はどうでもいい。たぶん私を含めて大半の読者は、本気で犯人を推理したいと思っているわけではない。ただ頭を働かせるのが楽しいのであれば、競技プログラミングでもすればよいし、そもそも名探偵ポワロと勝負するのは無謀である。そうではなく大半は、物語の途中において犯人を妄想するのが楽しい。それが、結末になって妄想がすべて無駄となったという意味でアンフェアと言ってるのであれば、それはそうかも知れない。実際に、私は一度もシェパード医師を疑わなかった。最後の最後に「それは、シェパード先生!あなたです!」というまで、気づかなかった。

消去法でならシェパード医師を疑うことは出来たのか?ラルフペイトンが違いそうなことはなんとなくわかる。最初から姿を見せない人間が犯人でしたなどとしたら大変な駄作だからだ。私は実はヘクターブラントと執事のレイモンドが怪しいと思っていた。ヘクターブラントが怪しいと思ったのはやたら紳士ぶってるという点と、スタイルズ荘と同様に、若い女と共謀してるパターンだと思ったからだ。それ以外には何の根拠もない。レイモンドが怪しいと思ったのも、できすぎた執事だからに過ぎない。このように、推理小説を読んでいて犯人を推理することはほぼ不可能で、「なんとなく怪しい」レベルにとどまってしまう。

ヘクターブラントについては途中で犯人でないことがわかったので、最後の最後まで執事のレイモンドが犯人だと思っていた。最後のポワロ家に集まってお決まりの推理発表会においてレイモンドがやたらとポワロに反論し始めた時は「おっこいつがやっぱり犯人か!」と歓喜したものであるが、結果は最後の最後まで善人ヅラしたシェパード医師だったのである。著者のアガサ・クリスティは最後の方になって、シェパード医師がポワロの捜査にやたらと協力しはじめたりと、ダメ押しでシェパード医師が犯人であることをカモフラージュしようとした。これも、わかりにくかった理由であると考えられる。

ただ今思うと、一点だけ、シェパード医師が何かを隠してるという点だけは怪しかったとは思う。これはポワロも疑っていたから、そこから、シェパード医師が犯人であることをかすかに疑った人はいたのではないか。あるいは逆張りの精神が旺盛ならばそうなったかも知れないが、それは推理とは言わない。

シェパード医師の自殺について

シェパード医師は最後に、ヴェロナールという睡眠薬を大量摂取して自殺を選択する。この薬は、芥川も自殺に使った、現実にも実績のある「永眠薬」である。

ポワロは推理発表会の最後になっても犯人を告げず、「私は明日になったら警察に犯人を告げます。しかしそれまでに、犯人がわかるでしょう。犯人は逃げません」と強調し、閉幕します。

その後、シェパード医師と二人になった時に「あなたが犯人です」と告げるのですが、シェパード医師はその後、自分視点の手記(つまりこの小説)を朝まで書き続けたあとに自殺します。それは、姉のキャロラインに自分が犯人であることを知られたくないためであり、もし自分が自殺すれば、ポワロが警察が事を荒らげぬように計らってくれると信じていたからです。

ラスト3章のタイトルは、

  • すべての真相:推理発表会
  • そして真実があるだけ:ポワロがシェパード医師に犯人が彼であることを告げます
  • 弁明

なのですが、なんと最後の弁明には、ポワロは一度も出てきません。

物語は、シェパード医師の

「それにしても、エルキュール・ポアロがが仕事を引退して、カボチャ栽培のためなどにここに来なければよかったのにと思う」

というセリフで締めくくられています。

シェパード医師が手記を書き上げ、軽く懺悔をし、ヴェロナールによる自殺を決意するところまでで終わっています。

ポワロはこの時、何を考えていたのでしょうか?

この物語の中では、ポワロは「自分の仕事は真実を知ることである」と何度も強調します。しかし、その結果たどり着いた犯人が、物語を通じて相棒としてやってきたシェパード医師であった時、ポワロは何を感じたのでしょうか。 これが最大のミステリーです。


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