陸上の大会で記録が出なかった時に観客から漏れるため息について思うこと

桐生が9.98を出してから、今や日本には3人もの9秒台スプリンターがいます。そのおかげで、陸上の短距離はとても人気が出て、大会には観客が大勢来るようになりました。これは、陸上界にとって単純に良いことだと思います。

しかし、同時にあることが始まりました。始まりましたというか、再発しました。

特に100メートルですが、9秒台が出ない時に観客から「あーあ」とため息が漏れるようになったのです。

これは、やめた方がいいです。というか陸連や、あるいはもう引退した選手がやめるように指導してほしいと思います。朝原とか塚原とか、実績のある選手が言葉を持ってきちんと観客を指導していくべきだと思います。

陸上が競馬のようにギャンブルならまだわかります。自分の馬券が外れてやじを飛ばすことだって起こりうるでしょう。しかし、陸上はアスリートが毎日自分をぎりぎりまで追い込んで、その日のために準備してくるという場であり、観客は、そのこと自体を美しいことと思うべきだし、感謝すべきだと思います。0.01速くなるために死ぬほど努力して、それでも0.01速くなれないで終わるというところで戦っているアスリートに対して、記録が9秒台じゃなかったらため息というのはあまりに失礼です。10.05だって死ぬほど素晴らしい記録ですよ。ウサインボルトだって、常に10秒を切れるというわけではないんです。

この「あーあ」は実は、今に始まったことではなく、以前にも行われていました。それは、日本人がまだ10秒を切れていなかった頃のことです。

その時、9秒台にもっとも近かった選手が末續慎吾です。200mの日本記録はまだ破られておらず、世界陸上の個人種目3位というのもしばらくは破られそうにない偉業です。当然、100mも9秒台を期待されていました。

そしてその当時もたくさんの観客が、9秒台見たさに競技場に集まって、記録が10秒を切れないと「あーあ」が漏れたのです。

これによって、末續は精神が壊れ、選手として一度は事実上引退します。

【希代のスプリンター 末続慎吾の告白(1)】100メートル9秒台への期待 パリ世界陸上銅メダルで「周囲は熱狂」…重圧を一人で背負う(1/3ページ) - 産経WEST

「あーあ」程度で傷つくやつはアスリートなんかするなと言う人は、では、自分の子供が一生懸命勉強したけど受験に失敗した時に「あーあ」というのでしょうか?しないですよね。実際、10秒前半で走ることでも身体の限界に近いことで、少し間違えば故障するというぎりぎりのラインで走っていて、猛烈に才能があって猛烈に努力してきた他の選手を打ち負かして一着でゴールしても「あーあ」ならば、そりゃ精神おかしくなるのが自然です。

東京オリンピックに向けて、決勝に残るためには9秒台で走ることがほぼ必須で、それが現実的になってしまった今だから、また「あーあ」が再発しているのだと思いますが、やめた方がいいと思います。これは、選手のメンタルを思っては当然として、もう一点は、観客のモラルが低いということは恥ずかしいことだからでもあります。東京オリンピックに向けて、いい機会なので、観客のモラル向上キャンペーンもやってみてはいかがでしょうか?ゴールしたらただ拍手すればいいだけです。

同じことを思っている人は多いだろうと思って、自分の意見を書いてみました。

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