オリエント急行の殺人。アガサ・クリスティはまたズルをする

私が3本目に読んだポワロシリーズは、「オリエント急行」でした。しかしこれがまた「アクロイド殺し」に匹敵するくらいの問題作でした。

今回は犯人は明かしません。 これがどういう意味なのか、本作を読んだ人なら理解出来るでしょう。

ポワロ、依頼をことわる

シリアでの仕事を終えたエルキュール・ポワロが、アレッポ駅という雪以外何もない駅で軍人に見送りを受けるところから物語は始める。 その軍人は、ただその要人を厚く見送ることを命令されただけであり、 朝5時ということもあって、早く電車が出発してくれないかとやきもきしていた。

タウルス急行が出発し、やがてイスタンブールに到着する。ポワロはイスタンブールで休暇をとる予定であった。 宿泊先のホテルに着くと、ポワロは、一通の手紙により、その休暇が台無しになってしまったことを知る。すぐさまロンドンに戻る必要がある。 すぐさまイギリス行きのオリエント急行を予約し、腹ごしらえのためにホテルのレストランで食事をすることとする。

ここでのちに死亡するラチェットという男に出会う。 ポワロは、ラチェットを「恐ろしい猛獣」と表現する。 表情から、内面にあるどす黒い悪意を感じ取ったのであった。

オリエント急行は毎年この季節はがら空きのはずだが、この日はすべてのコンパートメント が予約でいっぱいだった。しかしポワロは、運良く知り合いのブークという男に再開し、彼に似合わぬ2等寝台を確保することになる。 ブークは、オリエント急行の重役である。

こうしてオリエント急行は出発した。

オリエント急行に乗ってしばらくするとポワロはラチェットに声をかけられる。 彼もオリエント急行に乗っていたのだ。 ラチェットはこの小太りの男があの名探偵エルキュール・ポワロであることを知っている。 そしてその上で、護衛を依頼する。ラチェットは、自分が命を狙われているというのだ。

しかしポワロは、この猛獣に関わりたくなかったし、依頼を断る。 これがかの有名な「ポワロ、依頼をことわる」である。 しかも丁重に断ったわけではない。金の問題ではないと断った上でさらに断る理由を尋ねられるとこう言うのであった。

「あなたの顔が気に入らないです。ムッシューラチェット」

正しい使い方なのかも知れないが、ここは皮肉をこめてモナミ(わが友よ)と言ってほしかった。

そしてその夜、予定通りラチェットは何者かに殺害される。 駆けつけてみると、状況は混乱していた。 まるで男と女が交互に刺したような刺し傷。 ほら犯人の持ち物だよと言わんばかりに置かれている証拠品。 壊され、時を止められた時計。

そこでポワロは一片の手紙を発見する。しかしこれは燃やされていて字は霞んでいた。 化学的な手法でこの字を再現することに成功したポワロはこの事件の背景の裏にある思惑を知ることとなる。

そのラチェットという男は、 アメリカで起こった凶悪事件「アームストロング事件」の主犯だったのだ。 (アームストロング事件は、実際に起こったリンドバーグ誘拐事件をモデルとしている)

本当の名前をカセッティという。 カセッティは、当時、裁判によって無罪となり、国外に逃亡していたのだ。

幼い子どもを誘拐し、殺害し、たくさんの人間を破滅に追い込んだカセッティが何者かに殺された。 正義の鉄槌は下された。THE END

とはならなかった。

ポワロはブークの依頼もあり、 この事件の解明に深くのめりこんでいくのであった。

ポワロ、2つの解決法を示す

「ポワロ、2つの解決法を示す」

この物語のクライマックスは、異常なタイトルがつけられている。

ここでいう解決とは何なのか?もしかして、犯人をあぶり出すための 2つの手法を披露するということなのか?であれば示すという言葉を使うだろうか?

いや違うのだ。

どう違うか?それを今から書こうと思っていたのだが、 それを書いてしまっては身も蓋もない。 だからやっぱり書かないことにする。 この物語の本質は、犯人が誰かというチープなものではないのだ。 もちろんポワロの推理は見事である。誰が嘘をついているかを推理によって明らかにしていく 手法は見事であるしこれ自体も読み応えがある。

しかし、この物語の本質は、人間なのである。

一つだけヒントを与えると、 この事件に犯人はいない。

そう。犯人はいなかったのですよ。モナミ


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